Community Based Economy Journal 002 – 美しい経済の風景をめぐる旅の記録 –
創刊号と本号を通じて三十九名の方々と「美しい経済の風景」をめぐる対話をしてきました。各地を訪ね歩き、そこにある営みが宿す美しさに目を向け、耳を傾けてきました。そして今、想い浮かぶのは「生」という字です。より正確には、「生」という字が内包する「土」の質感についてです。
「生」という字は、草の芽の形を表す「屮」と「土」を合わせ、土の中から草が生えてくる情景を示した図形だといいます。そこには「生」を可能にする「土」の存在があることがわかります。
ある人にとってそれは、「風土」であったり、「信頼」であったり、「人の尊厳」であったり、「土地の記憶」であったり。いずれの「土」の質感も、「固有の生命性」を感じるもの。地域固有であり、その人やそのコミュニティ固有のものであり、人が「生き生き」と「生きる」土台となるもの。「いのち」が根ざすもの。
三十九名の方々との対話を通じて、「固有の生命性」が育まれている風景を、ぼくは「美しい」と感じているのだと気づきました。
美しい経済の風景は、「土」の中から生えてくる。
「土」の質感を手がかりに、各地各様の経済の風景をたのしんでみてください。
『Community Based Economy Journal』編集長 桜井 肖典
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#1 美しい経済の風景の、つくり方を訪ねる
寺田本家/寺田 優/CHIBA 7
「うま味」の存在が発見されてから百余年だという。しかしその遥か昔から、お米のうま味を活かして日本酒をつくる先人たちは存在していた。酒づくりは、かつて里山の田んぼで育んだお米と湧き水を原材料とし、地域ごとに固有の環境条件があるからこそ確立された、伝統的な食文化だ。同時に、豊かな環境で生態系を成す微生物の存在なくして、自然のお酒はつくることができない。「自分たちの仕事は、自然酒をつくることです」三五〇年の歴史がある千葉県の酒蔵、寺田本家・二四代目当主の寺田優さんは、丁寧に言葉を選びながら、自然酒へのこだわりをやわらかに語る。伝統と挑戦を両立できる冷静さと、未来を見つめる高い視点を保ったままに…
Kontrapunkt/Philip Linnemann/COPENHAGEN 23
皆さんもきっと一度は目にしたことがある空港や駅の案内板、そして王室や LEGO のロゴまで。デンマークは Kontrapunkt によってデザインされている、と言っても過言ではないくらい、彼らの手掛けた仕事を見ない日はない。人々の信頼と安心を生み、良き行動変容を促し、それが経済につながり、さらに美しい文化となって社会に染み渡り、歴史となっていく。デザインを通じて、一企業としてこうした流れをどのように生み出し続けているのか、彼らの哲学を訊いた…
老松/太田 達/KYOTO 39
京都御苑の西側、烏丸通をさらに一本西に入り、新旧入り混じる低層の街並を歩きたどり着いたのは、有斐斎弘道館。江戸時代の儒学者・皆川淇園が創立したこの学問所を取り壊してマンションを建設する計画が持ち上がった際、保存と再興に乗り出した一人が、明治時代から続く老舗京菓子屋「老松」四代目当主・太田達さん。現在は経営者でありながら、茶人であり工学博士であり、大学教授でもある。世界中のセレブから教え子の学生まで、さまざまな人に京文化の素晴らしさを伝えている太田さんが老松を継いだのは、二十三歳の頃。経営難に陥った会社に活気を戻し、続けてきた背景には、どんな信念や工夫があったのか。弘道館で出迎えてくれた太田さんに伺った…
うむさんラボ/比屋根 隆/OKINAWA 54
「僕は、『株式会社沖縄県』を経営しているような気持ちなんです」今回お話を伺った、比屋根隆さんの言葉だ。比屋根さんは、沖縄県で生まれ育ち、学生のうちにITの分野で起業。沖縄から世界に通用するプロダクトを生み出すことを願い、会社を軌道に乗せた。民間の力にこだわり、次世代のリーダー育成にも取り組んできた。そして、現在注力するのが社会的インパクト投資ファンドを運営している「株式会社うむさんラボ」だ。もしもあなたが、あなたの住んでいる地域の経営者になったとしたら。その「株式会社○○県」はこの社会にどのように貢献するだろうか?比屋根さんの言葉を手掛かりに、ぜひあなたの会社と地域のことを考えてみてほしい…
The Centre for GOOD Travel/Eliza Raymond、Julia Albrecht / LOWER HUTT 69
日常から離れ、いつもと違う風景や文化に触れることで気持ちをリフレッシュさせてくれる旅。現代では多くの人が身近に楽しめる娯楽として、消費者としての旅行者のニーズを満たすことを最優先にする旅のあり方が広がってきた。しかし今、そんな旅のあり方を変える動きも始まっている。訪れる人の人生を豊かにすると同時に、出迎える地域もまた豊かになる旅へ。そんな旅のシフトを実現している国がニュージーランドだ。同国で「リジェネラティブ・ツーリズム」を提案している社会的企業「The Centre for GOOD Travel」の共同設立者であるエライザ・レイモンドさんと、持続可能な旅のあり方を研究するオタゴ大学准教授のジュリア・アルブレヒトさんが来日し、京都を訪れる機会にその実践について聞くことができた…
Urban Farm Oasis/Novella Carpenter、Kate Hobbs/BERKELEY 84
カリフォルニア州バークレーの南、アッシュビー・アベニューとサクラメント・ストリートが交差する一角に、一風変わったガソリンスタンドがある。給油機から出てくるのは石油ではなく、地域の家庭やレストランなどから集められた天ぷら廃油を使ったバイオマス燃料なのだ。一九三〇年代に建てられたという煉瓦造のガソリンスタンドだった場所を、七人の女性の創業者たちがリニューアルし、協同組合組織のバイオ燃料ガソリンスタンド「Biofuel Oasis」としてオープンしたのは二◯◯◯年代初頭のこと。現在同組織は「Urban Farm Oasis」と名前を変え、バイオマス燃料だけでなく養鶏や養蜂など、都市型農業に関する資材を販売するお店となっている…
やまとわ/奥田 悠史/NAGANO 99
信州伊那谷(長野県伊那市)で「森をつくる暮らしをつくる」を理念に掲げ、豊かな暮らしづくりを通して、豊かな森をつくることを目指す「株式会社やまとわ」を訪ねた。「まずは工場を案内していただいてもいいですか」とお願いすると、奥田悠史さんは「わかりました」と言って歩き始め、建物と建物の間をすり抜けた。視界が開け、広々とした空き地が現れる。後ろをついて歩きながら、内心「どこに工場が?」と首を傾げていた。とうとう空き地を突っ切って、敷地の際まで進む。その先には深い森だけがあり、車一台分の幅の道が、かろうじて上に伸びていた。その道が始まる地点に立ち、奥田さんはこう切り出した。「僕らは森から資源をいただいているので、やはり森から話を始めたいと思うんです」…
ひより保育園・そらのまちほいくえん/古川 理沙/KAGOSHIMA 114
古川理沙さんは、ベビーグッズ販売、保育園や食堂、コワーキングスペースの運営など、鹿児島を拠点に次々に地域とつながる事業を立ち上げ軌道に乗せてきたパワフルな経営者。それなのにいつも「暇なんです、私」と口にしていて、実際に見せてもらった予定表は空白が目立ち、いつもご機嫌な表情からは、心身ともに健やかさを感じ取ることができる。古川さんはなぜこんなに幸せそうなのか? この謎を解き明かすことで、幸福度が高く持続可能な経済圏を広げていくためのヒントが見つかるかもしれない。そんな期待を胸に話を訊いた…
#2 美しい経済の風景の、感じ方と出会う
山極 壽一/総合地球環境学研究所 所長/KYOTO 130
「経済は、地域に取り戻さなければいけない」
現代社会を成り立たせている経済システムは、今後どうあるべきなのか。シンプル且つ本質的な問いを尋ねた矢先、私たちは機先を制された。 三〇年以上アフリカのジャングルでゴリラ社会を観察し、人類の起源を研究してきた山極壽一さんは、人間社会の文化と経済の問題点を率直に突く…
鞍田 崇/明治大学理工学部 准教授/TOKYO 145
思想家の柳宗悦を中心に、各地に点在する無名の職人の手による工芸品に「用の美」を見出し、評価した民藝運動。あれからおよそ一〇〇年が経ち、今、何度目かの民藝ブームが起こる中で、民藝を捉えなおす試みをしているのが、哲学者の鞍田崇さんだ。大学で哲学を学び、人文学的な知見から環境問題を研究したのち、民藝に向き合った鞍田崇さんは 、二〇一五年に出版された 『民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする』の中で、民藝における物と人間の関係を「いとおしさ」と表し、「いとおしさをデザインする」ことがこれからの社会、暮らしを作るうえで重要だと指摘した。鞍田さんの考え方に、新たなものづくりや社会づくりへのヒントを探ろう…
紫牟田 伸子/編集家/KAMAKURA 160
本誌編集長・桜井が構想家(デザイナー)を志すきっかけとなったのが『RE DESIGN:日常の21世紀』という本だった。そして、この本を編集したのが紫牟田伸子さんである。紫牟田さんの現在の肩書きは「編集家」。「肩書きに〝家〞がつくと、それは〝姿勢〞や〝所与のもの〞となって、常に自分と一体化し、〝それで生きる人〞という感じがする」 とその理由を話す。ライティング、編集、デザイン、プロデュース、研究活動、 さまざまな職種や活動を横断し、今、編集家として社会を見つめている紫牟田さんの思考の変遷から、社会や都市、経済を多角的に捉える新たな視点を探っていく…
中川 周士/中川木工芸 三代目/SHIGA 175
木片をつなぎ、金属製の〝タガ〞で縛ったシンプルなつくりなのに水が漏れない「木桶」 は、おひつや寿司桶、風呂桶、手桶、湯桶、産湯桶、棺桶など、人の暮らしに密接に関わり、使われてきた。江戸時代には各地で盛んに作られ、戦前まで私たちの生活を支えたが、戦後以降は工業製品が普及。暮らしが近代化し、木桶の需要が激減する中で、人間国宝である先代から七◯◯年の歴史を持つ伝統的な技術を受け継いだのが、中川木工芸の三代目・中川周士さん。技術を体得するために必要な「作る量」の減少を「作る知恵」の開発で補いながら、同時に革新的な作品づくりにも挑戦し、国内だけでなく海外からも賞賛の声がやまない中川さんに、職人だからこそ捉えることができる工芸の世界観を訊いた…
#3 美しい経済の風景の、つくり手と歩く
シェアビレッジ「森山ビレッジ」/丑田 俊輔/AKITA 191
少子化、高齢化する社会で、持続可能なまちや地域コミュニティをどう形成していくか。こうしたテーマを考える時、近年注目を集めている町がある。
秋田県のほぼ中央に位置し、人口八千人ほどの五城目町。伝統的な朝市がアップデートされて三千人が訪れる人気イベントになったり、閉業の危機にあった温泉が住民によって復活したり。面白いプロジェクトが次々と立ち上がり、それがまちの風景になっていく好循環が起こるこの町では、一体何が起きているのか。その手掛かりを掴むべく、私たちは五城目町を目指した。
案内いただいたのは、二◯一四年に東京から五城目町に移住し、自分でも町でいくつかのプロジェクトを立ち上げてきた丑田俊輔さんだ…
関美工堂「Human HUB Tenneiji Soko」/関 昌邦/ AIZUWAKAMATSU 206
国境や文化を越えて世界中の人びとが同じモノを手にすることができるようになった昨今、あらためて古くから地域に受け継がれてきた伝統産業を見直す動きが見られる。しかしながら、伝統というものはありがたがるだけでは守ることができない。長年受け継がれてきた意味と、未来につながる価値。それらを同時に見つめながら、漆産業に新たな風をもたらす人がいる。それが、関美工堂の関昌邦さんだ。何を受け継ぎ、何を生み出しているのか。関さんの話を訊くために、古くから東北の文化の中心地として栄え、今も中世からの漆産業が息づく会津若松へと足を運んだ…
紫野和久傳「和久傳ノ森」/桑村 綾/KYOTO 221
朝から雨が降っていた。新緑の木々の若葉から、雫がポタポタと落ちている。その雨の中、合羽を着たスタッフが、花壇の草をひとつひとつ手で取り、落ち葉を掃いていた。まるで大地を傷つけまいとでもするように、丁寧に、優しく。人の手が細やかに入った園内は整然とし、森がそれを守るように囲っている。食品工房やレストラン、美術館「森の中の家 安野光雅館」といった建物の数々は、森とともにひとつの「世界」を創り上げていた。晴れた日の森も美しいに違いないが、雨の日の森もまた静謐で、ひたむきで、美しかった。この光景だけを見れば、この森があるのが工業用地の一画だとは、誰も想像できないだろう。ここは、京都府京丹後市久美浜にある「和久傳ノ森」。一五◯年の歴史を誇る京都の料亭「和久傳」が、創業の地・京丹後に食品工房をつくる際、八千坪の広い敷地に〝ゼロからつくった〞鎮守の森だ。草一本生えていなかった地に、和久傳は約三万本の苗木を植えた…
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サイズ:A5変形
ページ:240ページ
言語:日本語
定価:2,700円+税
ISBN:978-4-911085-02-8
発行:一般社団法人リリース
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